自分という存在を純化していきたい/株式会社コナミデジタルエンタテインメント 卒業生 町田太一

インタビュー 2021.03.28|

美術科?洋画コースを卒業後、株式会社コナミデジタルエンタテインメントで3Dモデリングの仕事をしながら作家活動を続けている町田太一(まちだ?たいち)さん。仕事が終わると、週に2、3日はアトリエに通って制作をしています。そのアトリエを訪ね、仕事と制作を両立するに至った経緯や自身の表現について、お話をお聞きしました。

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洋画コースから、憧れのゲームメーカーへ

――現在のお仕事の内容と、就職した理由を教えてください

町田:ゲームキャラクターのモデリングと、最近はVFXなどのエフェクトの研究もしています。僕は洋画コースだったんですが、立体物を紙粘土で作ってそれを描いたり、彫刻的な要素のある作品が多かったんです。モデリングもやっていたので、それを生かせたらいいなと思っていました。ゲーム会社を志望したのは、もともとゲームが好きで、なかでも『メタルギアソリッド』というゲームのモデリングに携わってみたかったからです。

コナミデジタルエンタテインメント勤務 町田太一さん アトリエにてインタビュー中の様子

――油絵から3Dのモデラーというと異色の経歴ですね。専門知識が必要になると思うのですが

町田:そうですね。実際、ゲーム系の専門学校で、ある程度専門知識を学んで入社してくる人が多いです。僕の場合は、それまで制作した油絵や映像作品をまとめたポートフォリオを提出して、今の上司がたまたま拾ってくれた感じです。他の人とは違う、異質なポートフォリオで「変態だったから採用した」と言われました(笑)。ポートフォリオは決してゲーム業界向きではなかったんですけど、面白さを買ってくれたのだと思います。

入社後は、完全に知識ゼロからのスタートだったので、出された課題に対して、解決方法を全てYouTubeで調べるという、独学に近い状態で学び始めました。先輩が手取り足取り教えてくれるということもなく、本当に分からないところだけ聞いて。今では大抵のことはできるようになりました。

――これまで関わられたお仕事のタイトルを教えていただけますか?

町田:きちんとクレジットに載ったのは『メタルギア サヴァイヴ』ですね。他にもいろいろとプロジェクトは動いているんですが、市場の変化やコストの関係で頓挫したりすることもあって。ビッグタイトルの作品は、準備期間を合わせると完成までに5、6年かかります。構想も含めると10年かかるものもあるんです。そのなかで日進月歩で新しい技術が生み出されていて、勉強が欠かせない業界です。それにプラスして、物語やゲームシステムの検討を重ね、売り上げを見込めるのか研究する期間が必要なので、一直線に制作を進行できないんです。

コナミデジタルエンタテインメント勤務 町田太一さん アトリエにてインタビュー中の様子

――モチベーションを維持するのが難しそうですね

町田:そうなんですよ。だから、モチベーションの維持も兼ねて自主制作をしています。自主制作で得たものを仕事に還元して、また仕事で得たものを制作に生かして、というバランスでやっています。

――自主制作のためにアトリエを借りられたのは、いつからですか?

町田:今から2年前、入社して2年目のときです。久しぶりに連絡を取った高校の同級生から、この共同アトリエを借りていることを聞いて、僕も入居を決めました。

――会社員でありながら、自主制作のためにアトリエを持つというのは、珍しいことのように思います。何か決意があったのでしょうか

町田:いえ。そもそも僕のなかでは、就職することより作家として生きていきたいという思いの方が強かったんです。予備校時代の友人には藝大生が多く、みんな就職せずに制作を続けていく感じだったので、それもいいかなと思っていました。ただ僕は、制作に新しい技術を取り入れたくなるタイプで、何かとお金がかかるので、働きながら制作しようとは考えていました。

コナミデジタルエンタテインメント勤務 町田太一さん アトリエに掛けられた作品

――なるほど、自然なことだったんですね

町田:このアトリエはもともと相撲部屋だったところで、大家さんの「作家活動をする人たちを応援したい」というご厚意で安く借りられています。コロナ禍以前は、月に一度「ちゃんこ会」というイベントが開かれていて、入居者同士の交流も盛んでした。多いときには、40~50人ぐらい集まったこともあります。入居者の国籍や職業もさまざま。いろいろな出会いがある場所で、とても気に入っています。

自分のスタイルを見つけるきっかけ

――作家として生きたいと思ったのはいつから?

町田:僕は大学受験で2浪しています。その間に美術業界を目指すのをやめようと思った時期があって、もともと得意だった理系で進学しようとしたこともありました。数学を猛勉強したりもしたんですが、そのときに「やっぱり違う、美術をやりたい」と自分の気持ちを再確認して。その時から作家になることを意識し始めたように思います。

予備校時代は東京で過ごしていたので、いろいろな情報が入ってきて、浅いところで流行を追うような感覚がありました。芸工大を受験したのは、授業料が安いから、という理由が大きかったのですが、結果的には入学してすごく良かったです。自分の作品を詰めていくときに、周りに何もないから自分で考えるしかないという環境が僕には合っていたと思います。

コナミデジタルエンタテインメント勤務 町田太一さん アトリエに置かれた制作のための道具たち

――他に、芸工大に入って良かったと思うのはどんな部分ですか?

町田:先生の存在ですね。僕が今の作風になったきっかけというか、最初に認めてくれたのが、洋画コースの室井久美子(むろい?くみこ) 先生でした。粘土で立体を作ってそれを絵に描くという作品を初めて作ったとき、室井先生が褒めてくださったんです。そこからエンジンがかかってきた感じがあります。

制作をしていると自信をなくすことが結構あるんですが、そんな時も「いいじゃん、面白いじゃん」と声をかけてくれて。それに勇気付けられたことが何度もありました。

コナミデジタルエンタテインメント勤務 町田太一さん 作品名「Revenge」
「Revenge」 2019 1,305×1,945mm (写真:町田さんご提供)

秋に芋煮をしたのも楽しかったですね。卒業制作の追い込みの時期には、当時僕が住んでいたアパートがたまり場みたいになって、制作後にみんなで集まってお酒を飲んだりしたこともいい思い出です。

――一人一人がどんな表現をしたいのか見つけられる環境だったんですね。現在はどのようなものを制作をしていますか?

町田:基本的には絵と立体です。壁にかける半立体の作品も作ったりしています。イメージと物質の狭間みたいなところに興味があって、立体的なのに平面的な要素があったり、境界が曖昧な部分、それが世界観で統一されているような状態を創り出したくて、表現を模索しています。

コナミデジタルエンタテインメント勤務 町田太一さん 作品名「Fit Jail」
「Fit Jail」 2019 230×240×60mm (写真:町田さんご提供)

――そういった制作に、仕事から影響を受けることはあるのでしょうか

町田:直接ではありませんが、CGなどの新しい技術からヒントを得て作ったりもします。最近3Dプリンターを買ったので、作成した3次元のデータをプリントアウトしたりしていますよ。

――これから手に入れたいスキルなどはありますか?

町田:仕事に生きてくるものではプログラミング技術と、制作兼趣味では、ものを動かしたりできる配線技術や溶接のスキルが欲しいですね。

――本当に新しい技術を取り入れるのが好きなんですね!

町田:好奇心が旺盛なので(笑)。

――仕事でこれから挑戦したいことなどがあれば教えてください

町田:キャラクター制作では、しっかりゼロから作ってタイトル化された経験がないのでやってみたいですね。それも、AAA(トリプルエー)タイトルと言われる、花形のタイトルで出したいですね。ゲーム業界では、キャリアアップして管理職になる人もいますが、僕は職人であり続けたいと思っています。スペシャリストになって作り続けたいですね。

コナミデジタルエンタテインメント勤務 町田太一さん アトリエにてインタビュー中の様子

――作家を目指したいという方、芸工大で美術を学びたい方にメッセージをお願いします

町田:僕は、大学の卒業制作で『いい暮らし』というタイトルの作品を作りました。いい暮らしってなんだろうと考えたときに、社会的なテンプレートである「お金持ちの暮らし」ではなくて、自分の個人的な部分を許容できる生活環境があることだと思ったんです。

そうした環境をつくる手段はいろいろあった方がいい。美術系の大学に進もうという人のなかには、社会のシステムに馴染めない人が少なからずいると思いますが、社会のことをある程度知っていないと所得を確保するのは難しいです。作家活動を続けるためにも生活基盤はつくらないといけないので、「美術家はこうあるべき」という考えに固執せず、有益な情報を得て、自分がどうやって生きていきたいのかを考え、実現していってほしいです。

僕自身、最初は「えー、就職かよ」と思いました(笑)。でも、これが意外と制作にも生活にも役立つ選択だったんです。作家人生と言っても長いですし、制作をやめたくなるときがくるかもしれません。作家として成功したい気持ちももちろんありますが、同時に、無理せず自然体で生きていきたいとも思っている。それが自分なんだと認識して、自分をどんどん純化していくことも僕の表現です。作家も就職も、手段でしかないと思っています。

コナミデジタルエンタテインメント勤務 町田太一さん アトリエにてインタビュー中の様子

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企業で働く自分と、作家としての自分。どちらにも固執せず、どちらもあって自分だということを表現の根幹に据えている町田さん。これから大学進学をする方にとって、進路の決定は大きな決断ですが、その先にはいろいろな可能性があり、自分らしく生きていく方法をいくつも選び取ることができるのだと気付かされました。
(撮影:永峰拓也 取材:上林晃子、企画広報課?須貝)

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東北芸術工科大学 企画広報課
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