【2/24から開催?見どころ紹介】DOUBLE ANNUAL 2024 「瓢箪から駒—ちぐはぐさの創造性—」/アート?メディエーター 松本妃加(文化財保存修復学科 2年)?山根唯(文化財保存修復学科 1年)

ニュース&トピックス

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今年度の募集テーマは「問い合わせ中」です。コロナウイルスによるパンデミックを経験し、新たな社会のあり方を模索するこの世界を、作家たちはどのように捉えているのでしょうか。また、山形と京都という遠く離れた地で過ごす学生たちが東京で一堂に会し、同一のテーマで制作をした作品を展示するという行為は、鑑賞者の目にはどう映るのでしょうか。このテーマに応答する形で各作家が提示した応募時の計画を基に、7月に行われたキックオフミーティングより作家たちは制作に取り組み始めました。プレビュー展は2月に予定されている東京?国立新美術館での展示へ向けた、ブラッシュアップのための実験の要素も含んでいます。以下が作家個人にクローズアップしたものです。

[横田勇吾]

横田さんの作品は長時間露光を利用した写真作品と複数のモニターに映した映像作品から成ります。写真作品では自身がその場所に存在した記録を、ダンスを通して表現しています。また映像作品では日常でのリズミカルな動きを集め流ことで、ダンスとして提示した作品になっています。本展ではさらに作品数が増え、より自分が存在する空間への証明につながります。

横田勇吾「DOUBLE ANNUAL 2024」プレビュー展作品
2023年12月「プレビュー展」展示作品

[森田翔稀]

森田さんは映像作品を中心とし、現代社会における身体のあり方を身体表現で探求しています。映像の中央には森田さんの顔を型取った実寸の石膏によるライフマスクを設置し、そこに顔が重なるように彼の全身映像が投影されています。プレビュー展にはなかった絵画作品が本展では追加され、身体のあり方を実態の表現として模索しているように感じました。

森田翔稀「DOUBLE ANNUAL 2024」プレビュー展作品
2023年12月「プレビュー展」展示作品

[杜鞠]

本作は、男性と女性の婚姻を前提とする結婚式には賛同できない笑顔で参加できない杜鞠さんが感じる孤独感や疎外感を、絵画で表現したいと思ったことに端を発しています。祖父母と両親の結婚式を起点に現状の婚姻制度では排除されてしまう関係を、多様な性的マイノリティを指すクィアである自分の考えをもとに探求しました。また制作をしていく中で祖父母や両親の結婚に向き合い、当初の結婚に対する否定的な感情だけでなく肯定的な感情も加わる変化も見受けられます。本展ではそんな杜鞠さん自身が絵画を通し自分の考えに向き合っていく一つの成長にも注目して欲しいです。

杜鞠「DOUBLE ANNUAL 2024」プレビュー展作品
2023年12月「プレビュー展」展示作品

[木村晃子]

木村さんは沿道に捨てられた人尿が入ったペットボトルを「黄金のペットボトル」と呼び、尿入りペットボトルの不法投棄、その背後にあるトラックドライバーの過酷な労働環境に着目。プレビュー展ではそれらの諸問題を丹念に調査し、映像とリサーチ素材を組み合わせたビデオインスタレーションを制作しました。本展ではインスタレーションでの黄金のペットボトルの展示方法を新しく模索し、社会問題を広く共有し創造的な手法で改善していこうとする木村さんの思いを感じました。

木村晃子「DOUBLE ANNUAL 2024」プレビュー展作品
2023年12月「プレビュー展」展示作品

[菊池那奈]

本作は、現代の何気ない日々の暮らしにまつわるエピソードを聞き取り、それらを長い時間をかけて語り継がれる民話のような形式で「現代の民話」にまとめたものです。そして、それをこの地域に根ざす語り部に朗読してもらった様子を映像で捉えました。乾漆技法により作られた立体物には、語り部が静かに現代の民話を語る姿が投影されます。

菊池那奈「DOUBLE ANNUAL 2024」プレビュー展作品
2023年12月「プレビュー展」展示作品

プレビュー展までの半年あまりの制作期間で、各分野への取材を通して新たなインスピレーションを得た作家もいれば、作品に用いる技法表現を適切なものに変更した作家、自身と世界との関係性について見つめ続け、それを作品に反映させた作家もいます。初期のプランの構想に基づいてドローイングを続けてきた者もいます。制作開始時からプレビュー展までに作品が全く変化していない者はおらず、過程を知れば各作家がそれぞれの成長を遂げていることがよくわかります。このように、本展覧会企画は実践的な芸術教育としての面も持ち合わせているのです。

今展示のテーマは「瓢箪から駒—ちぐはぐさの創造性—」に決定しました。「問い合わせ中」という募集テーマから作家たちは自身の問いから答えを探します。しかしその答えと問いが必ずしもダイレクトにつながっているわけではありません。しかしその過程では「瓢箪から駒」のように意外なところから面白いアイデアや創造性あふれるものが生まれることがあります。そんな作家たちの制作の過程から表現に至るまでを表したのが本テーマとなっています。

プレビュー展の開催にあたって作家を悩ませたのは、本展との展示環境の違いでしょう。プレビュー展の会場であるTHE TOPとは異なり、国立新美術館の展示室は天井高が5mと、非常に広い空間での展示となります。 また、照明の当て方や色温度など、考えることは多かったでしょう。よって、プレビュー展と本展では展示プランを変更する必要がありました。作家たちは第一線で活躍する現役のキュレーターから制作指導を受け、対話を続けながら模索してきました。展示方法についてもアドバイスをもらい、形にしていきました。こうしたレベルの高い実践的な制作過程を経てプレビュー展にて展示された作品は、まだ改良の余地を残していても、非常に見応えのある作品ばかりだったといえるでしょう。

19日(火)には17時より、DOUBLE ANNUAL 2024ディレクターの服部浩之さん、金澤韻さん、監修の片岡真実さんによる公開講評会を開催しました。学内外からお越しいただいた多くの人に見守られるなか、作品や展示方法について直接指導を受けたこの講評会を経たことで、作家が改良や改善を重ねることができ、本展ではさらに高いレベルの作品が並ぶことが期待できます。プレビュー展をご覧いただいてから本展へ足を運んでいただきますと、作家が作品に磨きをかけてきた苦悩とその成長を感じることができるはずです。

「DOUBLE ANNUAL 2024」プレビュー展公開講評
2023年12月19日「プレビュー展」公開講評の様子

また美術展をつくる一連のプロセスの一部を担うアート?メディエーターらで作成したキュレータージャーナルにも注目してください。展覧会の概要やメディエーターの目線からの作家紹介が掲載されています。なかでも作家紹介では、制作中の習慣、作品が完成したと思う瞬間、影響を受けた人物という、各作家に共通の三つの質問を投げかけた質問コーナーなど、より作家の考えに深く触れることのできるような内容を目指しました。他にもキュレーターの方々が前回と今回の展覧会で感じる違いや楽しみにしていることについてのコメントなど、展覧会についての様々な情報が載るジャーナルは、展覧会会場以外にも大学内の各所で配布し、ありがたいことにプレビュー展に訪れた多くの人々に手に取っていただきました。東京での本展でも作成予定ですので、訪れた際はぜひお手に取ってくださりますと、より作品理解に繋がり、展覧会を楽しんでいただけると思います。

アート?メディエーターらで作成したキュレータージャーナル
アート?メディエーターらで作成したキュレータージャーナル

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本展は東京?国立新美術館で2024年2月24日(土)から2024年3月3日(日)の12日間の開催となっています。プレビュー展からブラッシュアップした展示であり、環境も違うためプレビュー展とは違った良さを持った展示になります。そしてプレビュー展とは大きく異なるのが、本校と京都芸術大学との合同での展示であることです。本展に至るまで、本校と姉妹校である京都芸術大学は連携を取ってきました。しかし作家同士が直接対面した事はなく、作品を直で見るのも初めてです。この出会いは各自に大きな変化を促すでしょう。その変化は展覧会が終わるまで続きます。新たな出会いは相手を通し自身を見つめる機会になり、どのような影響があるのかは誰にも分かりません。自分の違和感と他者の違和感を共有すること。すなわち、ちぐはぐさを共有する事で新しい目線を得ること。それはちぐはぐさの創造と言えるのではないでしょうか。またこの創造は作家同士のみならず、展覧会に訪れる人にも起こります。展覧会ではぜひ作家のちぐはぐさ、自身のちぐはぐさに目を向けて見てください。目を向けることから創造は始まります。是非それを会場でご体感ください、皆様のご来場をこころよりお待ち申し上げます。

 

Information


姉妹校の京都芸術大学が、2017年度から2021年度まで開催してきた学生選抜展「KUA ANNUAL」から、2022年度から国立新美術館に会場を移し、本学からも学生選抜を行う『DOUBLE ANNUAL』と名称を変えて開催する本展。
2回目の開催となる今年度もインディペンデント?キュレーターである金澤韻と服部浩之の共同キュレーションと片岡真実(森美術館館長)監修の体制のもと、両校から選抜された10人の学生が展覧会をつくりあげます。
全学部生と大学院生を対象に募集?選抜を行い、キュレーターの提示したテーマに応答する形で、キュレーターから制作指導を受け、対話を続けながら展覧会をつくり上げる実践的な芸術教育プログラムです。
京都と山形という二つの異なる地点から「アートになにができるのか」を問いかけます。

DOUBLE ANNUAL 2024 「瓢箪から駒—ちぐはぐさの創造性—」
2024年2月24日(土)~3月3日(日)10:00~18:00 ※休館日2月27日(火) 会場:国立新美術館3F 展示室3A(東京都港区六本木7丁目22-2)

 

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東北芸術工科大学 広報担当
東北芸術工科大学 広報担当

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