分野を超えて生まれる新しい発見と新しいカタチ/サンキュータツオ(文芸学科専任講師)×田澤紘子(企画構想学科専任講師)

インタビュー

タツオ先生?田澤先生インタビューの様子

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それぞれの専門分野を生かし、オリジナリティのある授業を展開

――まず、芸工大への着任のきっかけを教えてください。

田澤:私は進学で地元?山形県鶴岡市を離れ、大学では住民主体のまちづくりについて学びました。その後、仙台の文化財団に勤めているときに東日本大震災を経験し、どう地域を再生していくのか、地域資源?地域文化をいかに企画に仕上げて住民が集まる場を仕掛けていくか、というところに取り組み続けてきました。

そんな折、企画構想学科で「地域デザイン」を担当する教員を募集していることを知りました。近年、アートプロジェクトや商品開発の現場でも、地域文化をはじめとした地域の固有性に着目することは当たり前となっています。そこでしかできないこと、そこにしかないことを魅力として発信していく地域デザインなら自分の今までやってきたものを生かせるかもしれない、と思い応募させてもらいました。

田澤先生インタビューの様子

タツオ:僕は大学在学中から芸人活動をしていたんですが、いわゆる「テレビに出て知名度を獲得しよう!」という枠組みとはちょっと違う考え方で、東京の寄席を中心に大人向けの漫才をやっていました。芸人活動を続けながら大学院にも入り、博士課程でレトリックの研究をしていました。文章の表現研究に興味があったんです。

レトリック : 修辞技法。代表的なものは比喩や体言止め、倒置法や反語など。

そうやって芸人活動とレトリックの研究をしている内に、これってお笑いにも当てはまるんじゃないか、と気づいて。それからは「お笑いのレトリック」というものを専門に研究していたんです。ボケとツッコミと観客の関係性を分析したり、漫才ネタの文章を分析したり。大学院卒業後も芸人としての活動と並行して、研究や執筆活動を続けてきました。

芸工大に来る前にも、都内の大学の非常勤講師として外国人留学生の授業や大学1年生向けの初年次教育、3-4年向けにお笑いの授業などをやっていたんですが、他の大学と違って美大では作品のアウトプットが目標にあるので、ただ研究するのではなく、研究と創作が紐づいてる。そこがとてもおもしろいと思ったのがきっかけです。

タツオ先生インタビューの様子

――着任してからはどんな授業を行っているのですか?

タツオ:1-2年生向けには、文法項目から表現までを全般的に強化する授業をしています。文芸学科にはストーリーの構成やキャラクターの作り方を教えられる先生がいるので、僕の場合は作品の中身の表現技法、センテンスをもとに細かい表現を見ていく部分を担当しています。

3-4年のゼミでは大喜利をやることでアイデアの出し方をパターンとしてたくさん出せるような訓練をしています。一つのお題に対して、最低でも1人5パターンのアイデアを出してもらったり。他にも、徹底的に一人ひとりの個性を自分自身で把握してもらうために毎週文章を800?1500字ほど書いてもらい、さらに皆の前で発表するということもしました。人前で発言したりアイデアを出すことにためらいをなくすレッスンです。美大は作品をつくる場所なので恥ずかしがっている場合ではないですよね。座る席も毎週くじ引きで決めて、仲が良い人同士でかたまらないようにしたり、いろいろな視点から考えることの重要性を教えています。

タツオゼミの様子

田澤:私は場合、前期は1-2年生で地域型の演習を2つ行いました。まずは大学の周辺で、1年生は近隣(上桜田)の住宅街を、2年生は悠創の丘をフィールドに企画を考えてもらいました

悠創の丘

学生たちと自分は20歳ほど離れているので、情報のキャッチの仕方がまったく違うことに驚きましたね。SNSでつぶやかれていない=魅力がない場所と捉えてしまったり。やはり現場で自分の体で実感することは大切です。学生にとって最初は印象が薄かった上桜田も、演習を通じて何度も訪れることで、魅力を挙げられるようになりました。自分で動かなくてもなんでもネットに転がっている時代だからこそ、体を動かして自分で情報を取りに行くことは大事なんだなと、私自身も改めて学びました。現場に行って自分の情報として発信したり考えたりしないと、本当に情報に踊らされて終わってしまう。SNSネイティブ世代だからこそ、自分の中に基準を持ってほしいと思いますね。

田澤ゼミの様子

――多様性から、新しいアイデアは生まれる

――着任されて、学生の印象はいかがでしたか?

タツオ:学生はみんな、本当に明るくて素直ですね。

田澤:私もそう思います。

タツオ:芸工大には県内外からさまざまなバックボーンを持つ学生が集まっていて、多様性を感じます。文芸学科にも高校3年まで甲子園を目指して野球をやっていた子がいたり。進学校で成績上位の学生ばかりが集まるような大学では、テクニックはあってもどうしても似たような表現になりがちなんです。アイデア出しをしても「それは思いつかなかった!」というものを出してくる学生がたくさんいて、一人ひとりまったく違うんです。なによりも学生たちが書く文章を見ても発想の幅を感じます。その点は超おもしろいですね!

田澤:企画構想学科では「いずれ故郷に戻りたい」と語る学生が多い印象です。グループワークでは足並みを合わせていても、授業後の振り返りシートには、自分のあふれんばかりの故郷への思いを目一杯書いたりする学生もいます。故郷で何かをしたいけど解像度がまだ低い、だから講義で吸収してアウトプットしたいという気持ちはとても嬉しいです。そんな思考が育つのは芸工大らしいなと感じています。企画構想学科では、いわゆる広告代理店に入りたいという学生も多いですが、芸工大で学んできたからこそ、自分は地域に向ける視点も持っているんだと誇りに思って卒業後に活躍してほしいなと思います。

同期の二人が意気投合。地域資源を表現に昇華する「悠創の丘プロジェクト」

――さて、お二人が学部や学科の垣根を超えて共同で取り組む「悠創の丘プロジェクト」はどんな経緯で始まったんでしょうか?

悠創の丘プロジェクト : 緑豊かな「悠創の丘」の魅力を学生自身がよく知ること、より多くの人と共有することを目的とした長期プロジェクト。タツオゼミと田澤ゼミの学生が企画?参加している。

タツオ:着任後、中山学長が開催してくださった新任教員の懇親会がきっかけです。コロナ禍で少人数だったことから、同期の先生方と密にコミュニケーションをとることができました。田澤先生が授業で悠創の丘の関係者たちに話を聞きに行っていることを伺い、その話を聞いているうちに自然に「一緒にできたらいいね」と。

田澤:ちょうど岩波地区の方にお話を聞いた直後にその懇親会だったので、興奮冷めやらぬまま「こんな話があったよ!」と話していたら、タツオ先生がキャッチしてくださって、後日文芸のゼミ生に話してくださったんです。

タツオ:「他学科となにかやりたい」という学生がいたので、田澤先生の話をしたんです。そしたらすぐに「話を聞きに行ってきます」と。帰ってきたら「やることになりました!」とすぐに話が進みました。フットワークの軽さが良かったですね。

田澤:タツオゼミの3年生2人が私の元にやってきました。文芸の学生と接したのはそのときが初めてでしたが、ものすごくやる気にみなぎっていて驚きましたね。新しい題材に対して目が輝いていて、私も自分のゼミ生と交流させたいなと感じました。

悠創の丘から見える芸工大と山形の街並み

――具体的にはどんなことを一緒に取り組んだのでしょうか?

タツオ:全3回にわたるトークイベントを開催し、各回地元の方をお一人ずつ招いて、悠創の丘ができる前からできるまで、そしてできてからのお話をしていただきました。それをお互いのゼミ生が、メモをとったり質問をしたりして。開催後には田澤ゼミの学生が文字おこしをして、文芸の学生がそこからインスピレーションを受けた小説を作ったりしました。

田澤:実際に話を聞いたら、ゲストのみなさんが当時の様子をしっかり記憶されていて驚きました。ゲストで登壇いただいた80代の方は、ご自身が50代の頃に芸工大ができたんですね。リーダー的な役割を担われていて、どんなふうにこの地区が変わったのか、ご自身はどんな決断をしたのか、というお話がとても興味深かったです。

悠創の丘プロジェクト

タツオ:しびれる経験でしたよね。

田澤:そうですね、まさにしびれました。そのときにこう思ったということ自体がどこにも転がってない、そんな話を同じ空間で共有して、その中でも“言いよどむ”ような間があったり。そんな空気感をまさに学生と一緒に感じることができたのはよかったです。現代は、編集されきった言葉や映像を、しかも倍速で見るような時代です。そんな中で、話のプロではない素の住民の方が当時の思いを語り、それを聴くというのは、なかなかできない貴重な経験でした。

そしてさらに文芸のタツオゼミの学生が、それを小説にしてくれた。企画構想学科単独ではここまではできません。ここが芸工大のおもしろさであり、跳躍のあり方なんだなと。地域資源がここまで跳ねるかと驚いた経験でした。

冊子
タツオゼミ生制作の冊子「目覚めの記」

教員の数だけ、連携のカタチとアイデアがある

――「悠創の丘プロジェクト」の今後についてお聞かせください。

田澤:さまざまな先生方といろいろ連携できる可能性があるなと思ってます。それぞれの専門分野と結び付けると、先生の数だけアイデアがありますよね。私は今回、ゲストトークを聞いて「この地域にいさせてもらってる」と実感し、芸工大の存在には、それを受け入れてくれた上桜田っていう地域の懐の深さがあるんだなっていうことをよく考えるようになりました。地域貢献とか大袈裟な言い方ではなく、一緒にこの地域で暮らしているんだという感覚を学生が持つと何かがちょっと変わってくるんじゃないかなと思いますね。

タツオ:今度は朗読会も計画しているんですよね?

田澤:はい、暖かい季節になったら朗読ピクニックなどもやりたいなと考えています。このプロジェクトのご縁で稲刈りに参加したときに、地元の方が収穫祭を催すと聞いたので、そこでも新しいつながりをつくりながら、プロジェクトに活かしていきたいと考えています。

教員と学生で作り上げる最高の環境で、ここでしかできない学びを

――それでは最後に、先生ご自身の今後の展望、そして学生に得て欲しい思うことを教えてください。

タツオ:昼休みなどに大喜利大会を毎週やりたいですね。アイデアを競うという意味では、学科を問わず誰もが関われるテーマのひとつに「お笑い」があると思います。芸工大のお笑いサークルも元気がいいですよね。美大ならではのアイデア勝負として、持っている技術の無駄使いができる場が欲しいなと(笑)。それから放課後に落語を見る「放課後らくご」も始まっています。

放課後らくご : 図書館から様々な文化発信を行うイベント「OPEN LIBRARY」で開催中の、文芸学科のサンキュータツオ専任講師ナビゲートによる落語上映会。落語の寄席動画の視聴と解説が行われている。

放課後らくごの様子

田澤:現代は特に足もとを見ずに“画面”に集中してしまいがちですが、芸工大の環境は本当に最高です。ここでは足もとに良い素材が転がっている。その素材を生かす技をどう身に付けるかが企画構想の立場なのではないかと思うんです。資源と表現をつなぐキュレーター的な役割として、自分一人で完結させずに、いろんな専門性を持った先生や学生が手をつないで、芸工大らしい企画づくりに今後も関わりたいと思っています。

タツオ:芸工大は、教えている先生たちに笑顔が多い。田澤先生も、地域の方とした会話を私に教えてくれるときは「こんなおもしろいが話きけたよ!」とキラキラの笑顔で話してくれます。やっぱり大人が楽しんでる場所が学生にも楽しい場所だと思うんです。なので、自分たちが何より一番楽しんで、学生も学ぶことを楽しんでもらえる場所にしていきたいですね。

対談中の様子

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(文:高村陽子、撮影:法人企画広報課?有澤)

田澤紘子 企画構想学科専任講師 プロフィール

サンキュータツオ 文芸学科専任講師 プロフィール

悠創の丘プロジェクト note

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東北芸術工科大学 広報担当
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