自然と全身で向き合い、表現したい/土田翔(大学院複合芸術領域1年)

インタビュー 2020.09.04|

土田さんは絵画表現をベースとしながらも、雪原や川にダイブするような荒々しいパフォーマンス作品なども制作します。その理由を、「自分にとってのゆるぎない実感を身体で獲得し、表現したいから」と土田さんは話します。東北の自然から得られる実感とはどのようなものなのか、そうした自身の体験からどのように巨大な作品へと昇華させているのかをインタビューしました。

自然に向き合う作法としての「直写」

――土田さんは、「直写(じきしゃ)」という手法で絵を描きますが、風景を眺めながら描く「写生」とは、どのような違いがあるのでしょうか

「直写」は、日本画家の小松均(こまつ?ひとし)さん が生みだした絵画手法です。「直写」も「写生」も、対象をよく観察してものの形や本質を描くことは同じなのですが、「直写」は、動物や水の流れなどの動く対象や五感で得られる感覚なども優劣なく描きます。

土田翔

そうした小松さん独自の自然との向き合い方を、彼は「神との対話」と表現していますが、宮本武蔵の著した『五輪書』にある「兵法」の作法を、形式的、精神的に重要視しているとされています。それは、自身の感覚的なリアリティを追求することで、独特の線(描くときの)が生まれるということだと思います。

僕は、小松さんのそうした写生の概念や精神性を知ってから、現場の空気感を五感で感じて制作するプロセスをとても大切にするようになりました。それはある意味、小松さんの直写の追体験とも言えるかもしれませんが、そのような一つ一つの対象との出会いを自分の経験として結び留めることが、現在の制作の根幹となっています。

※小松均(こまつ?ひとし、1902年~1989年)
山形県北村山郡大石田町出身の日本画家。晩年に故郷の最上川を題材とした作品を多数残している。

――雪原や川に身を浸すことは、対象に深く感じ入るための土田さん独自の方法なのですね

そう言えると思います。学部生時代は日本画コースで学んだので、日本画の繊細な描画の手順や古来より大切にしてきたふるまいをとても尊敬してきました。今も自分の表現方法の出発点であることには変わりはないのですが、自然のような大きな対象を描こうとするときに、これまでの「絵画」という表現形式では描ききれないと感じることがあります。

洋画、日本画を学ぶ学生たちのプロジェクトメンバーによる共同制作作品。土田さんはこのプロジェクトの学生代表として活動。最上川の繁栄と衰退の歴史を学び、また現場に赴いて得た体感から芸術表現として制作した重厚な雰囲気の舟のインスタレーション。作品の支持体は、最上川の水によって漉かれた和紙が用いられている。

そんなとき、自分の作品制作の手順を見直して、描き方の順番を入れ換えたり置き換えたらどうなるのかを試してみようと思いました。例えば、筆を野球のバットに持ち替えたらどなるのだろうかとか。絵画という形式をリスペクトしながらも、自分が伝えたいことを表現できる制作方法として、分解して組み立て直すようにです。

一見暴力的にも見える方法で作品を作ろうとするのは、自然の「制御のできなさ」を表現したいからなんだと思います。絵を描く対象に身を浸すことで、自然との遭遇方法を自分なりに形成しているところです。

土田翔 最上川
最上川に入り、川の流れや水温、自分が動くことで起こる水の波紋を通して、自然の力を身体にインプットする様子を収録したパフォーマンス作品の一部。
土田翔 作品制作 インスタレーション
さまざまな機材は、土田さんが描こうとする対象を身を持って体感するための道具。

手のうちからはみ出してしまうもどかしさと醍醐味

――実際に絵を描くプロセスに入るまでに、大変な時間と準備が必要そうですね

そうですね。でも僕は深呼吸をするような感覚で絵画を描くので、いろんな日常や経験に行き詰まったりして苦しさに向き合う時などは、自分の中の大切な感覚と自然とが一体となる感覚を得たり、物事を俯瞰して眺められるようになる醍醐味を感じることができるので、楽しいです。

一方で、自分の身体スケールを超えた対象を作品として描くことになるので、かなり大きな作品になってしまって、一人で完結させることができないどうしようもない苦しさもあります。でもそれは人生と同じように、制御できないものへのもどかしさや違和感を受け入れていくことが、作家としての在り方を作っていくのだろうと感じています。

小松均 直写からの学び
真冬の寒さや静けさを身体に感じながら、大きな和紙に風景を描き留めていく土田さん。

――これまで描いた最上川の作品を展示する個展を9月に開催されるそうですね

最上川を望む場所にある「最上川美術館/真下慶治記念館」(山形県村山市)で個展を開催させていただくことになりました。最上川は、自分の故郷の福島にある「吾妻山」を源流とする川なので、故郷とつながる川として僕自身はとても愛着をもっています。

今回の展覧会テーマの一つ「刻む」は、小松さんから学んだ絵画技法を自分のルーツとしながらも、山の上流から流れてくる最上川の荒々しさや力強さ、川の波紋を、自分なりに身体に刻み込み表現するということを意味しています。自分の身にこれまで刻まれてきたものと、自分が刻んでいくもの。その両面を表現した作品です。

土田翔
支持体は紙や布だけとは限らず、木製パネルに描くことも。
土田翔
何層かに張り付けた表面をグラインダーで削ることで、山の持つ荒々しさや厳しさといった重厚さを表現する。
土田翔

もう一つのテーマは、「エンカウント(遭遇)」です。インスタレーション、映像作品、音の作品、絵画、パフォーマンス作品がありますが、どれも僕なりに体感した最上川との遭遇を表現した新作4点と、旧作3点です。これらの作品と鑑賞者の出会い、鑑賞者の皆さんと自分自身の出会い、最上川を経由したそうした出会いから、この地域に根差した新しい風景を作りたいと思っています。

「最上川美術館/真下慶治記念館」での展示風景(一部)

展示の実現に際しての交渉では、最上川美術館の学芸員の方にも協力いただいたのですが、僕が影響をうけた小松さんも晩年に多くの最上川に関する作品を制作してきた方なので、「大石田歴史民俗資料館」(山形県北村山郡大石田町)からお借りして4点展示します。この記念館の常設展の真下慶治さんの作品も常設室で観ることができます。

――ご来場くださる方にメッセージを

川の流れのように生まれる交流を大切にしたいという思いから、ワークショップやイベントを企画しました。この機会に、地域のみなさんと交流させていただくことで、最上川への思い、作品への思いを伝えたいと思っています。

最上川 ワークショップ
「最上川美術館/真下慶治記念館」のテラスから最上川流域の風景を直写する土田さん。
直写 

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東北芸術工科大学 広報担当
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