文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

[優秀賞]
山形県上山市来訪行事「加勢鳥」の継承方法 ~聞き取り調査とケンダイ制作を通して~
鏡綾夏
山形県出身 
立体作品修復ゼミ

 山形県上山市では人口減少?少子高齢化から地域無形文化財の人員不足が課題となっている。そんな上山市の中で、2月11日に行われる年神様の来訪行事「加勢鳥(かせどり)」(図1)は行事の参加人数が増加している。しかし、聞き取り調査から加勢鳥には行事に必要なケンダイ(藁製の蓑)を制作する後継者不足の問題が明らかになった。この問題は将来的に行事の存続が危ぶまれる可能性が高い。

本研究はケンダイ制作の記録を残し、実際に制作する事で、加勢鳥の保存?継承の一助となることを目的とする。

研究方法は以下の2つである。①加勢鳥の現状問題と解決方法を得るために上山市観光協会?加勢鳥保存会の聞き取り調査を実施する。②ケンダイ制作の継承問題を解決するために、自身がケンダイ制作を保存会の人と共に行い、誰しもが制作できるように制作技法を実物?写真?文章?動画で記録する。

ケンダイ制作の実施により、保存会1名と筆者自身が制作の工程を習得したため、後継者不足問題の解決につながった(写真2?3)。また、先代に教わり習いに行くという形であったため、人無しではケンダイ制作が難しいとされていたが、動画の記録により、情報の記録化を可能にした。

動画の活用について、保存と継承を目的としていたため、初めは幅広い人が制作方法を知り出来るようになることが重要だと考えていた。しかし、加勢鳥を守り受け継いできた一部人は「ケンダイを誰しもが制作できてしまうことへの抵抗感」があることから、その抵抗感に配慮した活用方法が重要であることに気づいた。今回の聞き取りから制作方法は公にはせず、動画を保存会?観光協会に提出することにした。

地域文化財は文化を大切にしたいという人が集まることで、継承を可能としている一面があるものの、継承に携わる人全員が同じ考えを持ち、同じ方向で活動するというのは難しい。保存と継承を考える場合、地域のコミュニティに入り、大多数の中の少数意見にも目を向ける必要がある。そこから継承に携わっている当事者の視点と研究を目的とした客観的な視点の両方の考察が重要である。


柿田喜則 教授 評
鏡綾夏さんは、生まれ育った地元の来訪行事「加勢鳥」の保存と継承について研究を行った。
論文は観光協会?市役所?加勢鳥保存会への聞き取り調査からケンダイ制作(わら製の衣装)の後継者不足の問題が見つかったことを契機としている。解決方法としては彼女自身が制作方法を学び、記録動画残すことが継承において有効であると考えた。また過程の中で保存会の人たちとの積極的交流を図り、保存会の人たちの加勢鳥に対する想いを見つけ出した。その上で無形の地域文化財は人と人との繋がりから継承されてきているとし、保存と継承を考えた場合、地域のコミュニティに入り、継承に携わる当事者の内視点と客観的な外視点の両方の考察が重要であると結論づけている。課題設定から成果までの一連の研究過程は彼女が体験と通じで生の声を聞き情報収集した賜物であり、他教員からの評価要因になっている。また、研究の集大成として2月11日に加勢鳥行事にケンダイを身につけ参加した。当日は多くのメディアに取材を受け、自身が行った研究の社会的意義を体感している。
彼女の研究成果や行動力は優秀賞として相応しいと考える。

1、 加勢鳥行事の様子

2、 ケンダイを制作している様子

3、 ケンダイの完成