文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

厚塗り日本画作品の修復方法に関する一考察
鈴木千春
愛知県出身 
東洋絵画修復ゼミ

 日本の絵画には伝統的な掛軸、屏風といった作品の他に1950年代以降に発展した「日本画」が存在する。これらの作品は岩絵具が厚く画面全体に塗布される技法で描かれており、比較的新しい絵画ではあるが既に損傷の起こっている作品が存在している。しかし、修理事例も少なく、修理方法が確立されているとは言い難い状況である。本研究ではこれらの新しい日本画作品の特徴の1つである厚塗り技法に注目し、それらに起こる絵具層同士の剥離をどのような方法、膠の濃度で接着することが望ましいのか検討した。

実験は絵具をシート状にした試料を製作し、それらをパネルに接着することで比較を試みた(図1)。接着には牛皮膠の0.1、0.3、0.5、1、3、5、7、10、13、15%の膠水溶液を使用し、接着方法はA駒込ピペットで膠水溶液を一滴垂らし軽く押さえる方法、Bエタノール(30%)を塗布し膠水溶液を浸透させたのち、ケイドライ、マイラーシート、おもしを置き自然乾燥をさせる方法、Cエタノール(30%)を塗布し膠水溶液を浸透させたのち、修復用電気鏝(50℃に設定し5分間当てた)を用いて圧着および乾燥をさせる方法を試した。接着作業を行い十分に乾燥したことを確認した後、触診ではどの試料も動くことはなかったが通常0.1%などの低濃度での接着は難しいとされている。そのため、実際の剥離損傷を確認する際に行われている針を差込み浮き上がりが起こっているか確認する方法で接着しているか確認したところ、接着方法を問わず0.1~1%の試料は簡単に差し込むことができ、浮き上がりがあることを認めた(図2)。実験の結果及び先行研究やこれまでの修理事例をもとに考察した結果、膠の濃度は3~7%が適切ではないかと考察する。接着方法はCの方法が他と比較し僅かに良好であったことから熱圧着を行うのが望ましいと考える。しかし、日本画の絵具には熱を加えることで変色を起こすものもあることから修復される作品に合わせた適切な接着方法を選択することが望ましい。

実験回数が不十分ではあるものの、この実験方法は接着を検証する上で有効であると推察し、実験の回数を重ね実験を行なって生じた疑問点、問題点を改善することでより正確なデータを得ることができると考える。本研究をきっかけに厚塗りされた日本画作品の修復方法についての研究がさらに発展し、適切な修復方法が確立されることを願うとともに本研究がその一助となれば幸いである。

1実験で用いたパネルの全体図

2試料に針を差込み確認する様子