文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

西洋茜を使ったレーキ顔料の研究
平山捺未
埼玉県出身 
西洋絵画修復ゼミ

 絵具は主に顔料と結合材からできており、特に絵具の色彩を担当するものを顔料という。顔料の原料は様々あり、有機物、無機物、天然物、人造物などのものからできている。中でも、水などに可溶な染料を体質顔料などの他の土台となる物質に染め付けて作るレーキ顔料というものがある。このレーキ顔料の代表に茜レーキ(マダーレーキ、アリザリンレーキ)がある。この顔料は染め付けて作る顔料であるため、制作条件によって出来上がる顔料の色調に違いがあるのか疑問である。よって本研究では染め付ける対象(体質顔料)を変えることで、茜レーキの色調が異なるのか、もし変化するのであれば、どういう理由から色味などが変化するのかを考察したい。

 茜レーキは西洋茜の染料を用いた顔料である。古典絵画では重要な赤色絵具としてグレーズ技法の際に用いられていた。グレーズ技法は同系色の絵画層の上から液状に油で溶いた絵具を何層も塗り重ねていく技法である。そこで、実際に8種類の体質顔料を西洋茜で染め付け、染色度合いの相違を観察した(図1)。さらに、染め付けた体質顔料を油と混合しグレーズ技法を用いて塗り実験を行い、絵具としての発色や彩度の比較をした(図2)。また、塗り実験を行ったサンプルを色差計で計測し色味の違いを数値で比較を行った。

実験の結果として、染色後はすべての試料は赤系の色味に染まったことが確認できた。しかし、体質顔料ごとに茜染料による染まり具合が異なっていた。さらに、塗り実験において乾性油と混ぜた際、絵具としての発色や彩度などに相違が発生することが分かった。色差計の計測結果として、体質顔料ごとに明度や彩度に違いが見られた。このことから、絵具の発色は顔料自体の隠蔽力や屈折率が関わるのではないかと推察する。こられの実験の結果から、絵具の美観的相違については、各体質顔料の持つ屈折率と結合材の油の屈折率との相互関係や、その結果としての隠蔽力の違いなどが色調の相違と関わる要因の一つと考える。しかしながら、当実験を行う際、改善点が複数見られたことから、体質顔料の染まり具合の要因を明言するには、実験内容を改善し、より精度の高い結果とする必要があると考える。

1 染め付けた体質顔料

2 グレーズを施したサンプル