文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

印金裂製作に関する考察-箔押しの接着剤について-
山下わかな
三重県出身 
東洋絵画修復ゼミ

目次 印金裂とは何か。/実験内容「箔押し」技法の再現と必要条件/結論

 「印金裂」とは、かつて日本で高い評価を受けた、型紙を使用し金箔で文様を表した裂地である。主に袈裟や小袖、茶の湯道具、掛軸の表装に用いられた。中国が発祥であると考えられており、日本は室町時代から江戸時代の前期にかけて多く輸入され、「名物裂」として重宝された。しかし、日本へ輸入された頃、中国では既に印金技術は廃れており、技法などは伝来時に伝わらず、輸入品が模倣され国内の金を用いた加飾技法と共に独自の発展を遂げたとされる。オリジナルの製法が失われた印金は現在、修復においても「再現」という形で行われる。「応夢衣」は戦後、印金が再現という形で修復された作品である。(図1)

印金裂は金箔により、繊細な文様と金属的な重厚感を表現している。その表現は「箔押し」に使用される接着剤によって出来栄えが左右されると筆者は考えた。文献調査により、印金の箔押しの接着剤には主に「膠、糊、漆」が使用されていたことが確認できた。しかし、製作過程は大まかに述べられているものがほとんどであるため、装潢文化財修理でよく用いられる「膠、糊」に着目し、また膠と糊の混合接着剤も作成した。箔押しの際の接着剤のおける必要条件を三点定め、印金裂の製作を通して上記の必要条件を網羅する接着剤を検討し、箔押しに適切な接着剤を見つけることを目的とした。

①「型の形通りに滲まず、留まる。」

②「布の凹凸を埋め、金箔が貼り付く。」

③「摩擦と巻きによる刺激に耐え、金箔が落ちない。」

必要条件①では型紙を作り、布へ固定し、接着剤を濃度ごと、二箇所ずつヘラで二度、塗布し、接着剤の滲みを確認した。②では塗布後、金箔を押し、乾燥後に余分な金箔を落とし、貼り付きを確認した。(図2)③では製作した裂の強度を確認するために、電子顕微鏡で刺激前と後を比較した。(図3)

 三点の必要条件を全て網羅する接着剤を本研究では、断定するに至らなかったが、文献調査や実験を通して「糊20%+膠10%の混合接着剤、糊の割合が全体の60%以上90%以下」が箔押しには適切であると考えた。今後の展望として、印金裂の主な裂地である、羅の様な薄い裂地に箔押しを行うことと、混合する濃度と割合をさらに細分化し、同じ必要条件のもと検証を行う必要がある。また、主な材料の「漆」についても知識を深め、箔押しを試みたい。

1.修復事例作品「応夢衣」重要文化財

2.糊濃度5%ごとに箔押しした様子。

3. 電子顕微鏡写真(倍率50倍)比較表。