歴史遺産学科Department of Historic Heritage

医療現場の死と向き合う
髙橋麻衣
山形県出身 
松田俊介ゼミ

目 次 研究目的/資料分析/調査結果

現在では死を臨む場所も看取る場所も病院に移った。さらに、医療現場の特殊で専門的なフィールドに対して、私たちは距離を置いてきた。死に携わる仕事は特殊で近寄りがたいものだと考える傾向は今でも変わらない。亡くなる事?看取る事が病院の役割へと変化している。これまで患者の家族が担っていた看取るという行為が、徐々に医師や看護師などの医療従事者が担うようになっていく。本研究では医療従事者から話を聞き、病院が臨む場所?看取る場所がどのように変化しているか、これから病院死にどのように対応しなければならないのかを考察していく。

医療機関における死亡割合の年次推移(図1)によると、1950年代では自宅での死亡率のほうが病院での割合よりも格段に高かったが、1970年代前半を境として割合が逆転している。自宅での死亡率が低くなるにつれ、私たちが死に直面する機会?看取る機会も年々減少してきている。

調査の結果、患者と家族間の考えの違いやすれ違いにより、患者が死を臨む場所?看取る場所を選択することが出来ず、介護にあたる家族の都合や家庭の現実的な都合で患者の意思が通らない傾向にあることが分かった。また、患者自身が家族や子供たちに気を使わせたくない、負担をかけたくないと思い、家族や子供たちの都合に合わせる側面もあった。患者の意思決定に患者家族の都合が関与するのは、現代では当たり前の事となっているのだ。しかし自宅で看取ることは子どもや孫への教育効果のみならず、家族全体に生きることへの実感を与えるだろう。

だが、自宅で看取るためには①周囲の理解、②職場や社会全体の配慮?理解、③医療現場?関係者の理解、この3つの視点から理解を深める必要がある。看取る行為や死を臨む現場を整えるためには、家族が患者の体調?意志を理解し気遣わなければならない。家族や親戚、友人など、周囲の人間が患者の体調?意志を理解することで、患者の考えと周囲の考えのすれ違いも起こらないはずだ。また、職場?社会全体が、在宅医療や在宅死を看取ることに配慮しなければならない。

図1死亡の推移(厚生労働省2020より 筆者作) (1部)