歴史遺産学科Department of Historic Heritage

[優秀賞]
阿武隈川流域の縄文時代墓制の変遷
安田楓加
福島県出身
青野友哉ゼミ

東北地方の屋外土器埋設遺構は子供用の墓であるとされている。しかし、福島県福島市宮畑遺跡のように成人の墓が検出されず、子供用の墓とされる土器棺墓ばかりが検出されるのは不自然である。そのため、土器棺墓の中に成人の再葬墓が含まれている可能性があると考えた。本研究は配石墓と土器棺墓の検出例の多い越田和遺跡と?方前遺跡を対象に、土器棺墓の設置方向の分類と時期的変遷を整理したのちに、当該地域の墓制の変遷を解明する。

 まず、土器棺墓の分析を行った。土器棺墓の設置方向は土器を通常通りに設置した正位、横に倒した横位、口縁をしたに倒立した状態の逆位、土器が土坑内で傾くが口縁は上を向く斜位に別れる。横位の土器が埋設される土坑は土器の大きさに合わせて掘られており、土器の容量以上のものは入らない。しかし、正位に埋設される土器は口縁から大腿骨などの?い骨を飛び出して土器の容量以上のものが入ると考えられる。また、土器棺墓の器高は51.5cmであるのに対し、縄文人男性の大腿骨の平均最大長は43.58cm(佐伯 2005)であり、ほとんどの土器棺墓に成人の骨を収めることができると判断した。さらに、土器の土器棺墓の型式編年表を作成し、時期的変遷を整理した(図1)。

次に、配石墓と土器棺墓の比率を時期ごとに比較し、変遷を確認した(図2)。主体を占める墓が成人の再葬墓だと考えられるため、主体を占める墓が配石墓から正位の土器棺墓に切り替わる時期を確認できれば、土器棺墓が成人の再葬墓である可能性を指摘することができる。

配石墓と土器棺墓の比率を確認すると、大木10式は横位が主体で、全体の83%を占める。綱取I式期古段階でも横位が主体となり、全体の73%を占める。綱取I式新段階では配石墓が78%、横位の土器が21%となり、配石墓が主体となる。綱取II式では正位が67%と主体を占める。大木9式から綱取I式古段階までの間の土器棺墓はほとんどが横位に設置される。つまり、大木9式から綱取I式までの土器棺墓は、子供用の土器棺墓の可能性も成人の再葬墓の可能性もある。綱取I式新段階では配石墓が出現する。配墓は成人用の墓と考えられるため、この時期の土器棺墓は子供用だと考えられる。綱取II式では配石墓が検出されず、土器棺墓のみになる。また、一般的な土坑墓も検出されない。従って、土器の容量に制限のある横位の土器棺墓が子供用、土器の容量以上のものが入る正位の土器棺墓が成人用の再葬墓である可能性が高いと判断した(図3)。


青野友哉 准教授 評
「これは動物の骨ですよね」と多数の骨片の中からヒトと動物を選り分ける彼女は、骨を見る確かな目を持っていた。縄文人骨の接合もお手の物だ。
入学時から「ホネ好き」だった安田楓加さんが卒論のテーマに選んだのは郷里福島県の縄文時代の墓制。
子供用の墓とされる土器棺墓と大人用の配石墓のアンバランスな出土数に疑問を抱き、土器棺墓の中には白骨化させた骨を入れた再葬墓、つまり大人の墓も含まれているのではとの仮説を立てた。
検証には土器編年に基づき墓址を時期ごとに整理し、土器棺墓と配石墓の割合や、土器棺の設置方向の変遷を検討するというオーソドックスな方法を用い、結果を出した。
その過程で、配石墓の上部の「陥没割合」を算出することで木棺の有無を判別した方法は、縄文時代の墓制研究に新たな視点を追加したと言える。
惜しむらくは再葬墓の存在の指摘には、一次葬墓への言及がなされるべきだった点である。この課題は、就職後に福島県の埋蔵文化財調査を担う中で追究されることだろう。
優秀賞の受賞は、ただの「ホネ好き」から脱却した証であり、今後の調査研究活動での支えとなるだろう。

図1 土器編年表

図2 配石墓と土器棺墓の比率

図3 墓制の変遷