文芸学科Department of Literary Arts

佐藤穂菜美作品集
佐藤穂菜美
宮城県出身

〈本文より抜粋〉
 今日は休戦日のはずなのに、狩りは失敗続きだった。上空――飛行機が飛ぶよりもずっと上、宇宙というには地球に近いところ。そこで爆発が起きないだけで獲物を捕まえやすくなるはずなのに。アンナは成果がないまま、だんだんと暗くなってきた森を出ようとしていた。しかし、このまま手ぶらで帰ったら丸一日食事を採れないまま眠ることになる。それはまずい。疎開でやってきた無礼な子供のせいで、今朝は配給が食べられなかったのだ。睡眠中に凍死だなんて珍しくもない。ここで一生を終えることに不満がある訳ではない。むしろ、自分がこれほど活発に生きられる場所など、もうここしかないのだろうと思っている。だからこそ、よそ者の存在は厄介だった。アンナはすっかり赤くなった頬を両手で叩いて自分に喝を入れる。「新雪の上で転ぶようなお子様じゃないんだから」拳を握り脇を締め、笑顔を作って意気込む。「わっ!?」すっ転んでいた。新雪の上で。右足が引っ張られた、と思った瞬間に目の前が真っ白になっていたのだ。3秒ほど沈黙して、やり場のない怒りと共に腕立て伏せの要領で上体を起こす。右足が何かに引っ張られたことに嫌な予感を覚えると、場違いなものが視界に入った。銃弾、としかいいようがなかった。「でも、形は似ている、けど……こんなに大きくはなかったはず」幼い頃に見た猟銃の弾を記憶の中で照らし合わせる。あれはもっと細くて、15にも満たないアンナの掌に収まってしまうほどの長さしかなかったはずだ。しかし、雪の中から見つけたそれは今のアンナが両手を広げなければ落下してしまうほどのサイズと重量がある。「っていうか! 誰、こんなとこに罠を仕掛けたのは!」アンナは容易く危険物を放り投げて、罠に引っかかった足を確認すべく上体を起こした。鉄製の、中心に重みをかけた獲物の脚を挟んで捕獲する型の罠だ。アンナは未だ数えるほどしか扱ったことがなく、解除方法など知るよしもない。眉を寄せて苦々しげな顔をした彼女のとった方法は酷く明快だった。精一杯の力で両側に引っ張り、足を引き抜く。勢いがつきすぎてまたしても転んでしまったが、今度は横へ倒れたので雪の誤飲は避けられた。水が枯れた訳でもないのにこんな冷たくて不味いものなんか口に入れたくない。水分摂取にしたって効率が悪すぎる。