文芸学科Department of Literary Arts

[優秀賞]
来世に喝采は起きない
松木千聖
山形県出身
石川忠司ゼミ

〈本文より抜粋〉
 就活は頑張っても誰も評価してくれない。そのことは分かっていたけれど、誰にも見られない努力をやめる勇気はなかった。
 自意識過剰なのは昔からだった。テストだとか、レポートだとかの社会的評価につながる物事はサボれない。先生からの信頼を失う行為は、自分を否定されているようで苦しい。評価が少し下がるだけだと理解はしているけれど、視線さえもが「こんなこともできないなんて」とわたしを侮蔑しているように思えて怖いのだ。
 何もしたいことが見つからない。そう学校のカウンセラーに相談したら、突き放されたことを思い返していた。
 とにかく笑顔。愛想良くして、いろんな業界の説明会に顔出してればなんとかなるから。ポジティブに人生生きないと損するよ。
 そういう、なんとも曖昧なアドバイスが今までの就活で役立ったことはない。むしろデメリットばかりだ。笑顔だからと言って説明会で目立つことはないし、口角を上げっぱなしにしているから翌日筋肉が引き攣る。
 志望してる業界はないの。ちょっと分からなくて。じゃあ、何が得意? あんまり得意なことはなくて。苦手なことは? ……多すぎて、何て言ったら良いか分からないです。
 ため息。わたしのため息で二連鎖。ちょっとアドバイスしようがないかな。三連コンボ。
 武山さん、事前に話すことくらい考えてきた方が良いよ。俺は一応カウンセラーだからさ、こんなに優しくしてあげてるけど。社会人になったら俺より酷いこと言う人もビンタしてくる人もいっぱいいるでしょ。女の子だからって言い訳はもう聞かないよ。もう少しちゃんと世の中勉強して。
 KOのゴングが鳴り響く。


石川忠司 教授 評
実に現代的な物語だ。
大学生の主人公はお気に入りのVライバーの卒業にショックを受け、卒業の本当の理由を知るため自らライバーとして活動する。ライバー、子供に依存する母親、承認欲求、人間関係の不安etc……様々なテーマをブチ込みながら、焦点の合わせ方が妙にフラットなのが面白い。
一応、小説らしい構造は担保されている。様々な問題を抱えた主人公がライバーの経験を通じて成長するという構造だ。にもかかわらず、この主人公は根本的な部分で世界に対し無関心であり、ライバーをやっていてもどこか距離感を感じさせ、並行して就活もちゃんとしているし、対人関係が原因で落ち込んでもそれが物語的な起伏をつくらない。わりと普通に日常生活が回復する。
しかし、今の現実を生きるとはそんなものではないのか。経験が大幅に人間を変え成長させることなどあり得ないし、様々な問題を抱えながら時間に流されていき、問題は原則解決されず、しかしまさに時間に流された分、ぼんやりと「大人になる」のがリアルな現実だろう。
小説的な構造を極力リアリズムに引っ張った作品だと思う。そしてだからこそ、ラストの一文は強力だ。「明日がくる」。