大学院Graduate School

地方都市改造論2050 -地方都市におけるカーボンニュートラルを実現する方法論の研究-
小笠原一穂(デザイン工学専攻 建築?環境デザイン研究領域)
山形県出身
竹内昌義ゼミ

目次 はじめに/シナリオ分析/空間コンセプト/おわりに

 2015年パリ協定が合意されエネルギーの脱炭素化を目指し温室効果ガスの削減が世界共通の目標として定められた。日本でも2050年までにカーボンニュートラル(以下、CN)を達成するために改正地球温暖化対策推進法(以下、温対法)の改正が2021年6月に施行され、脱炭素の目標が法的に位置づけられた。CNに向けた地域主体の取組が法的に推進されたことで、地方都市では人口減少を受け入れつつ、経済が自立循環する計画するが今後の地方都市に求められる。本研究では2019年中核市に移行した山形市(以下、市)の建築で使用するエネルギーを対象とし、2050年までにCNを達成する方法をバックキャストにより作成し、将来の地方都市のイメージを示すことを目的とする。
 2020-50年までの電気?熱需要を算出し、建築の断熱性能を義務化する年代、内容毎にcase1-4(図1)のシナリオを作成し必要な再エネ導入量を算出した。断熱性能の義務化が行われなかった場合、市内の建築屋根と田畑面積約6割に太陽光パネルを整備する必要がある。高性能な断熱性能の義務化を2025年から行った場合その割合を田畑で約半分、建築の屋根で約1/4に減らすことができる。このことからCN達成のためには再エネの導入だけではなく建築の高気密校断熱化が必要である。
 これらのデータを踏まえ、市全体のCN化達成のための空間コンセプトをとした(図2)。プログラム自体を書き換えるようなバージョンアップではなく、プログラムを改良するアップデートを地域特性やスケールに合わせ「Patch を当てる」ように計画するコンセプトである。市街地や田畑、山林が南北に伸びる市の用地特性や機能に合わせ、既存の都市構造をと再定義し各ストライプ上に「patch1-6」の計画と空間イメージを提示した。(図3)
 本論で述べた建築の高断熱高気密化が実行され、人口減少と合わせ需要の絶対量は大きく減少していく。その需要に対し屋根置きの太陽光発電や、用地特性に合わせた再エネを適切に導入することが出来れば既存の技術でカーボンニュートラルを達成することが可能である。
米国、中国、EUという大規模な経済圏がCNに対する取組みを積極的に進めている中で、日本もその取組を加速させ、各自治体がボトムアップ型で達成することが今後の地方都市では有効である。縮小する地方都市の豊かさを実現するため、カーボンニュートラルを達成する取り組みを早急に進める必要がある。

1.case1-4の断熱義務化年代と内容

2.都市のコンセプトイメージ

3.ソーラーシェアリングの整備イメージ