歴史遺産学科Department of Historic Heritage

山形県内に遺された伝世品からみる相良人形
齋藤太一
山形県出身
北野博司ゼミ

目次 研究目的/研究対象資料の概要/相良人形の制作工程と技法/伝世品の調査/考察/まとめ/引用?参考文献、資料

 東北地方における郷土玩具の研究では、主に厄除けや招福長寿、彩色においては「赤物」と呼ばれるものに疫病を避けるといった民間信仰を含め、そのような意味が込められており、郷土玩具の一つの土人形もまた、同様の意味があった考えられる。研究で取り上げる相良人形も土人形の一つであり東北三大土人形とされている。この相良人形に関する先行研究では、図録や技法を記したもの、相良家と人形制作の関係を記した史料、同地域で作られたとされる下小菅人形と比較したものなどがあったが、相良人形に描かれた文字や印など痕跡について触れられているものは少ない。このことから本研究では、山形県内の伝世品の観察と測定と現在も人形制作に関わっている相良家の方々に取材等を行い、それら文字や印等が残された意味や意義について探っていく。
 まず現地調査では、相良人形の制作に関わっている米沢市の相良家の方々への取材から、相良人形の用いられる粘土の採掘と保存、人形の成型、焼成から絵付けなどを行う制作現場を見せていただき、同時に相良家の方々が人形制作にかけている考えや現在の人形の需要などについて聞き書きを行い、伝世品については、米沢市の幸徳院から奉納されている古相良人形の地蔵像の所在確認と現在の状況の調査を行い、また観察と測定は、松ヶ岡開墾記念館から127体、山形県立博物館からは閲覧が許可された28体の人形から行った。これらから観察と測定したデータから画像一覧と属性表等を作成した。
 この研究で相良人形の制作工程、伝世品の観察と測定から使用された人形型や考文字や印などの考察を行った。この研究や調査、考察から空気穴の有無や使用されている粘土など制作工程において動作や道具が初代からおよそ200年以上変化せず受け継がれていることを確認でき、また相良家で制作された人形の中にあった「乃亜作」の文字や印は乃亜という画家が再現したものを示すものであること(図1)や、それらと区別するために人形作り七代が底部に名を描き入れたこと(図3)、人形は大型でも20㎝未満であり、それぞれの大きさの誤差が1㎜と大幅な差はないことにより同一の型から量産されたなど、いままで触れられることが少なかった乃亜作の相良人形について明らかにできた。そして、この研究の過程で作成した表や目録等(図3)は、これまでの研究と共に相良人形の保存活用の資料として繋がるのではないかと考える。

図1 「乃亜作」の文字と印

図2 人形作り七代が底部に描き入れた文字

図3 制作した松ヶ岡開墾記念館の相良人形の属性表(一部)